大判例

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東京高等裁判所 昭和58年(ネ)2823号 判決 1985年1月31日

控訴人

ファインクレジット株式会社

(旧商号 コニー株式会社)

右代表者

日沼聰

右訴訟代理人

荒木孝壬

福屋登

被控訴人

東邦自動車株式会社

右代表者

澁沢善七

右訴訟代理人

岡部勇二

主文

原判決を取り消す。

本件を東京地方裁判所に差し戻す。

事実

一  控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人に対し七四三万六〇〇〇円及びこれに対する昭和五五年五月一八日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

二  当事者双方の主張は、次のとおり加除訂正をするほか、原判決事実摘示中「第二当事者双方の主張」欄のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決二丁裏末行<編注、本誌五一九号一七九頁一段一行目>の「本訴提起」の次に「(昭和五五年五月一二日)」を加える。

2  同三丁裏二行目<編注、同号同頁同段一八行目>の「中村は、被告に対し、」を「被控訴人は、中村に対し、」と改める。

3  同四丁裏末行冒頭から同五丁表七行目まで及び同八丁表六行目冒頭から同八丁表末行までをそれぞれ削除する(同四丁裏の「三被告の抗弁」及び同八丁表の「五再抗弁」の各「1」は欠番とする。)。

4  同八丁裏一行目<編注、同号同頁三段二八、二九行目>の「抗弁1、4に対し」を「抗弁4に対し」と改める。

5  (当審における控訴人の追加主張)

(一)  原判決は、債権者が債権者代位権を行使し、かつ、債務者がその事実を知つたときは、債務者は被代位債権についての処分権を拘束され、その後における被代位債権の処分行為の結果を代位債権者に対抗できないものであることを無視したものであり、不当である。本件のように、債権者が債務者に代位して第三債務者に対する金銭債権を行使する場合には、債権者は第三債務者から直接金銭の給付を受けることによる利益をも有するものであるから、本件において、本件土地建物の所有権が本件売買契約(原判決事実摘示第二の一2の売買契約をいう。以下同じ。)の合意解除により債務者たる中村に回復されたからといつて、控訴人の本件代位権行使の目的が達せられたといえないことは明らかである。

(二)(1)  しかも、控訴人は、先に、控訴人を債権者、中村を債務者、被控訴人を第三債務者として東京地方裁判所に対し、中村の被控訴人に対する本件土地建物の売買代金債権の仮差押えを申請し(同庁昭和五五年(ヨ)第五四三号債権仮差押申請事件)、同裁判所から、昭和五五年一月三〇日、その仮差押決定を受けたものであり、同決定正本は、そのころ、中村及び被控訴人にそれぞれ送達された。

(2)  したがつて、中村と被控訴人との間において、本件売買契約を合意解除しても、被控訴人は、右合意解除に基づく右売買代金債権消滅の効果を控訴人に対抗することはできない。

(三)  中村は、その後においても無資力であることに変りはない。中村は、本件訴訟係属中、被控訴人との裁判上の和解により、被控訴人から本件土地建物が中村の所有であることを認められ、その所有名義を回復したが、その後、本件土地建物を他に処分しており、控訴人の被保全債権を満足させる資力は全くないものである。

(四)  被控訴人の次の追加主張(三)(四)はいずれも争う。

仮に、本件売買契約が虚偽表示によるものであつたとしても、控訴人はそのことにつき善意の第三者である。

6  (当審における被控訴人の追加主張)

(一)  控訴人の右追加主張(一)は争う。

(二)  同(二)の(1)の事実は認め、同じく(2)の主張は争う。

(三)  本件売買契約は、次の理由により、当初から無効である。したがつて、控訴人の本訴請求に係る売買代金債権はもともと発生していない。

(1) 本件売買契約は、中村が多額の借財により困窮し、倒産寸前の状態となつて被控訴人代表取締役澁沢善七(同代表取締役澁沢善七を、以下、単に「澁沢」という。)に救済を求めたため、中村と澁沢が通謀のうえ、中村が債権者の追及を回避する方法として、虚偽の意思表示により締結した仮装のものである。

(2) 仮に、中村の依頼の内容が虚偽であつたとすれば、澁沢は、中村の欺罔により要素の錯誤に基づき本件売買契約を結んだものである。

(四)  原判決事実摘示第二の三4の裁判上の和解は、本件売買契約が右のとおり無効であるため、原状回復の方法として成立をみたものである。

三  証拠関係<省略>

理由

一(被保全債権及び被代位債権について)

1  <証拠>によれば、蒲田モータース(代表取締役中村忠義)は、昭和五三年一二月一三日、池本自動車工業所からフェラリ・デイトナ一台を、代金一〇六〇万円、登録税等の諸費用五七万二五〇〇円、合計一一一七万二五〇〇円を支払う約のもとに買い受けたこと、蒲田モータースは、同日、控訴人に対し、池本自動車工業所に対する右一一一七万二五〇〇円の債務のうち蒲田モータースの支払済分を控除した残金の弁済を委託し、控訴人の池本工業所に対する支払分を分割支払の方法により控訴人に償還する旨約したこと、訴外中村忠義(以下「中村」という。)は、同日、控訴人に対し、蒲田モータースが控訴人との間の右支払委託契約に基づいて控訴人に負担することになる立替金償還債務を保証する旨約したこと、控訴人は、蒲田モータースからの右委託に基づき、本訴提起(これが昭和五五年五月一二日であることは記録上明らかである。)より前に、池本自動車工業所に対し蒲田モータースの右債務の支払残金八〇〇万円を弁済したこと、以上の各事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

2  中村が、昭和五四年一二月二五日、被控訴人に対し、本件土地建物を金一億円で売り渡したこと(「本件売買契約」)は当事者間に争いがない。

二(抗弁4、5について)

中村と被控訴人との間には、本件売買契約の存否及び本件土地建物の所有権の帰属について争いがあつたが、中村と被控訴人とは、昭和五七年一一月五日、東京地方裁判所昭和五五年(ワ)第一〇二八三号所有権移転登記抹消登記手続請求事件及び昭和五六年(ワ)第八四七七号売買代金反訴請求事件において裁判上の和解をし、その和解条項として、「(ア) 被控訴人は、中村に対し、中村が本件土地建物を所有していることを認め、昭和五七年一二月二五日限り、中村から(イ)の三五〇〇万円の支払を受けるのと引換えに、本件土地建物につき錯誤を原因として、中村から被控訴人に経由されている所有権移転登記の抹消登記手続をする。(イ) 中村は、被控訴人に対し、本件和解金三五〇〇万円の支払義務のあることを認め、昭和五七年一二月二五日限り、被控訴人から(ア)の抹消登記手続を受けるのと引換えに、これを支払う。(ウ) 中村はその余の本訴請求を、被控訴人は反訴請求を放棄する。(エ) 中村及び被控訴人は、本件に関し、本和解条項に定めるほか他に債権債務のないことを相互に確認する。」との合意を交わしたこと(この裁判上の和解を以下「本件和解」という。)、本件和解に基づき、中村は、昭和五八年二月二六日、被控訴人に和解金三五〇〇万円を支払い、被控訴人は本件土地建物につき和解条項(ア)のとおりの抹消登記手続を了し、それぞれの登記名義が中村に回復されたことは、いずれも当事者間に争いがない。

三ところで、控訴人は、一の1の契約に基づく債務者中村に対する自己の債権を保全するため、債務者中村の被控訴人に対する、本件売買契約に基づく売買代金(予備的に、請求原因4の譲渡担保に基づく清算金)債権を代位行使し、そのうち七四三万六〇〇〇円の支払を被控訴人に対し、請求するものであるが、原判決は、本件和解に基づき、中村から被控訴人への本件土地建物についての所有権移転登記が抹消され、それぞれの所有権及び各所有名義が中村に回復したことにより、控訴人の代位権はその行使の目的の到達により消滅し、債権者代位行使に際し問題とされる債務者の無資力要件にかかわりのない別個の問題として、控訴人の本訴各請求はその基礎を失い、結局、控訴人の本件訴えは訴訟要件を欠くに至つたとして本件訴えを不適法とし、却下したものである。

しかしながら、控訴人の本訴における債権者代位権行使の目的について考えてみるに、債権者が自己の債権を保全するため債権者代位権に基づきその債務者に属する金銭債権を行使する場合には、債権者は、総債権者の利益のためでもあるにせよ、当該金銭債権につき当然に弁済受領の権限を有し、第三債務者に対し、直接自己にその給付をすべきことを請求し得るものであり、また債権者が代位権の行使による訴訟を提起し、その訴訟の係属を債務者が知つたのちは、債務者はその代位される権利につき代位の目的に反する処分をなす権能を失うものと解すべきところ、控訴人の本訴各請求はいずれもこの類型に属するものであるから、控訴人の本訴における債権者代位権行使の目的は、抽象的にも、具体的にも、控訴人が、前叙中村に対する自己の債権につき満足を得る手段として、右のような類型の本訴請求を選択したものであることを直視し、控訴人自らの債権の保全にあたるものと解すべきである。ところで、債権者代位権行使の目的はとりもなおさず債権者自らの債権保全にあり、そして、右債権保全の目的の存在は債権者代位権行使の前提要件であるから、債権者代位訴訟の係属中に債権者代位権行使の右目的が達成された場合には、訴訟要件として存すべき当該訴訟追行の利益が失われるに至ると解する余地がある。しかし、問題は、はたして、どのような具体的場合に債権者代位権行使の目的が達成されて、債権者は、代位権行使の利益が失われるかであるところ、控訴人の本訴における債権者代位権行使の目的が叙上のとおりである以上、原判決が判示するような中村と被控訴人間の本件和解により、その和解の諸約定のもとに、本件土地建物の所有権が中村に回復した事実関係を以て、控訴人の本訴における債権者代位権行使の目的が当然に達成され、控訴人は、本件代位訴訟を追行する利益を欠くに至つたものと断定するのは、控訴人の各主張及び叙上認定説示の事実関係、弁論の全趣旨に照らし、到底是認することはできない。他に、特段、控訴人の本件債権者代位権行使の右目的が達成されたというべき事実関係を認めるに足りる資料はない。

四以上の次第であるから、控訴人の本件訴えを不適法として却下した原判決は、その余の各所論につき判断するまでもなく不当であり、この点において、本件控訴は理由があるから、原判決を取り消すこととし、本件については原審において、直截に、本案請求の当否について審理が尽くされるべきものであるから、民事訴訟法三八八条により本件を原審裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり判決する。

(後藤静思 奥平守男 橋本和夫)

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